大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)609号 判決

一 成立について争いのない疎甲第一、第二号証によれば、被控訴人が、名称を「畦の成型装置」とする登録第一〇〇九二四一号実用新案(昭和四四年二月八日登録出願、昭和四七年一二月一六日出願公告―昭和四七―四一六一七号―昭和四八年七月二六日登録。以下、この実用新案権を「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であることが疎明され、一方、控訴人が原判決添附第一目録記載のDM一型機械マルチ(イ号装置)を製造し、販売していることは、当事者間に争いがない。

二 前掲疎甲第一号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件考案の実用新案登録願書に添附された明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりであることが疎明される。

「ビニールシート敷設装置の本体の前面に横長の均平板を固着垂設するとともに該本体の左右の支持部材にそれぞれ内側に土を寄せる土寄器を装着し、それの土寄部に連続するならし部は内側に長く延長し、その内端部分をそれぞれ前記均平板の前面に重合せてビニール敷設装置の畦成型器に構成したことを特長とする畦の成型装置。」(別紙本件考案図面(〔編註〕省略)参照)

しかして、右のうち、土寄器19(以下、番号及び記号は添附図面記載のものを指す。)のならし部19bの「内端部分をそれぞれ前記均平板の前面に重合せ」るとは、明細書の考案の詳細な説明の項及び図面を参照すれば、土寄器のならし部の内端部分を均平板の前面に接触させて均平板により支持させることであると解される。

すなわち、右甲号証第一欄第一八行ないし第二一行には、「本考案において目的とするところはビニールシート敷設装置の作用幅に対応する畝成型器の作用幅の拡縮の調節が強度に影響を与えることなく行い得るようにするにある。」と記載され(なお、右の「強度」とは「畝成型器の強度」をいうものと解される。)、第四欄第二四行ないし第三七行には、「土を内側に寄せる土寄器19、19、土寄部19a、19aは常に支持部材4、4により支持されているから、どのように横方向に動かして作用幅を変化させたときにも土を確実に内側に寄せ、畦を成型する。しかも、寄せられた土の上面を均らす均平部は、本体1前面に垂設固着されている均平板6とその前面にラツプしている前記土寄部19aに連続させたならし部19bとにより形成されているから、最も強力に土圧を受ける先端部位が常に均平板6の前面に支持されることになり、どのように長く形成してもたわむことがなく、常に土寄部19aと共同して所望の畦を成形する。また、このことから、薄鉄板で必要とする長さに形成できる利益が併せて得られる。」との記載があり、更に第一図には均平板6と土寄器19のならし部19bの内端部分とが接着しているものが記載されている。

右記載によれば、本件考案に係る畦の成型装置は、最も強力に土圧を受ける土寄器のならし部の内側先端部位が常に均平板の前面に接触してそれに支持されるから、土寄器は薄鉄板ででも形成できる点に特長があるものと認められ、右記載と前記本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載とを併せて読めば、本件考案は、土寄器のならし部の内端部分が均平板の前面に接触して均平板により支持されていることをその重要な構成要件の一つとしているものであると認められる(なお、本件登録出願の願書に添附された図面の第二図――甲第一号証参照――には均平板6と土寄器19とが接着していないものが記載されているが、右図面は第一図と比較参照すれば、作図誤りであると認められるので、第二図の記載があるからといつて、本件考案は均平板と土寄器の内端部分が接着することを要件とするものではないとはいえない。)。

三 これに対し、その構造について当事者間に争いのないイ号装置の土寄器は、いかなる部分においても、均平板と接触していないから、イ号装置は、本件考案の前記構成要件を充足せず、したがつて、イ号装置は本件実用新案権の権利範囲に属しないものといわなければならない。

被控訴人は、本件実用新案公報中の本件考案の作用効果に関する詳細な説明の項の記載によれば、本件考案に係る畦成型装置の土寄器のならし部はその作用幅を拡縮するために均平板の前面で摺動移行するものであるから、ならし部と均平板との間にはその移行のための一定の間隙がなければならず、本件考案はならし部と均平板が重合密着していることを要件とはしていない旨主張する。

しかしながら、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は土寄器のならし部が均平板の前面で摺動移行することをその要件の一つとしているものではないから、被控訴人の右主張は前提を欠き失当である。

被控訴人は、更に、イ号装置は実際にはならし部を指先で押す程度の圧力で簡単に後方に撓み、均平板の前面に接するような構造になつているから、明らかに均平板による支持を予定しているものであり、また、作業中にはならし部と均平板との間には土が流れ込んで詰まるようになり、この土を介して均平板の前面でならし部が支持されるし、仮にイ号装置のならし部がその剛性により、土圧によつて後方に撓まないとしても、ならし部先端を均平板に接触させないということは、作用効果には全く意味のないことであり、絶対接触させないようにしたとしても、それは単なる設計変更というべきである旨主張する。

しかしながら、イ号装置のならし部が指先で押す程度の圧力で後方に撓み、均平板の前面に接するとの点について疎明はなく、また、イ号装置において左右の土寄器のならし部の内端部分間に間隙があるようにして土寄器を装着して作業すれば、作業中はならし部と均平板との間に土が流れ込むことはある(原審における検証の結果、特に添附写真<10>及びその説明参照)が、これはならし部の内端部分間に間隙があることの結果として当然のことであり、そのことがあるからといつて、それによりイ号装置においてはならし部が土を介して均平板の前面で均平板に支持されているということにはならない。更に、前説明のとおり、本件考案は土寄器のならし部の内端部分を均平板の前面に接触させて均平板に支持させることにより、土寄器を薄鉄板ででも構成できるという効果を奏するものであるが、イ号装置はそのような利点を有せず、土寄器をある程度の剛性をもつたもので製作しなければならないから、効果において本件考案におけるものと異なり、これを単なる設計変更にすぎないものということはできない。被控訴人の主張は、いずれも理由がない。

成立について争いのない疎甲第二三号証(昭和五三年判定請求第七二号の判定謄本)は、イ号装置は本件考案の技術的範囲に属するとし、「この種装置においては、畦成型作業中に、ならし部と均平板との間に若干の間隙が存在していても、作業時にその間隙に土の詰まることはごく普通のことであるから、本件実用新案のものにおいても、畦成型作業中にはならし部と均平板との間隙には土が介在していると解するのが相当であつて、その場合、すなわち、ならし部の内側部分が土を介して均平板に支持される場合でも、考案の詳細な説明に記載のような作用効果を奏するものと認められる。したがつて、本件実用新案における「重合せて」を、ならし部の内端部分を均平板の前面に「接触するように重合せる」と解しなければならない積極的理由は見出せない。」という。

しかしながら、右判定は、本件考案に係る畦成型装置はならし部の内端部分と均平板との間に間隙が存在していることを前提として、逆に本件考案の実用新案登録請求の範囲中の「重合せて」の字句を解釈しているものであつて、採るを得ない。

四 右のとおり、イ号装置は、本件考案の技術的範囲に属しない。

したがつて、被控訴人の本件仮処分申請は、被保全権利について疎明がないことに帰し、疎明に代る保証を立てさせて仮処分命令を発することも相当ではないから、控訴人、被控訴人のその余の主張について判断するまでもなく、これを却下すべきものである。

よつて、被控訴人の申請を認容した原判決は不当であるから、これを取消し、被控訴人の本件仮処分申請を却下することとする。

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